日韓の 法令に 関すること(など)

日韓の 改め文に 関することを 中心に 調べたことなど(法令以外に 関するものも 含む。)を 書いていく 予定です(ひとまず)。 IE未対応です。

一部改正方式と一括改正法令の題名

韓国の法制処(日本の内閣法制局に相当)の『法制』2021年12月号、277-287頁から翻訳

なお、〔〕の記載及び後註のうち「訳註:」とあるものは、訳者において付したものである。それ以外の後註は、原文のものである。

  • 著者:キム・ハンニュル(法制処法制支援総括課長)

第1 序論

2018年、政府から「中央行政権限及び事務等の地方一括移譲のための物価安定に関する法律等66個法律一部改正法律案」を国会に提出したが、当該法律案は形式上制定案であるにもかかわらず法律案に一部改正法律案と表記されており形式と法律案の名称が一致しないとの理由で受領を拒否したことに伴い、国会の意見を受け入れ、題名を「中央行政権限及び事務等の地方一括移譲のための物価安定に関する法律等66個法律一部改正のための法律案」に修正して再提出したところである。

その後政府及び国会立法基準、一括改正立法例、日本の立法基準及び外国の立法例等を検討し、一括改正形式に関する基準を国会の意見のとおり制定形式に変更した。

筆者は、一括改正形式の基準を変更するにあたり、日本の事例を参考としたという事実を聞き、本当に日本でそのようにしているのか疑問を感じざるを得なかった。筆者の認識では、日本では、一部改正法律も別途制定されるという点で制定ではあるが、施行と同時に吸収され、附則だけが残るという点で一般的な制定と異なり、一括改正方式も一般的な一部改正と同一に扱われると認識していたためである。

このため、遅ればせながら、日本で一部改正方式と一括改正方式をどのように扱っているかを検証し、法令立案・審査基準の変更が妥当であるか検討してみることとする。

 

第2 わが国における一部改正方式と一括改正法令の題名

1 法令の制定・改廃方式

法令を制定すれば、廃止されるまで存続し、改正されたとしても同一性を維持し、制定された法令中一部を改正する場合は一部改正方式、全部を改正する場合は全部改正方式を選択している。一部改正方式には、改正対象となる既存法令と新たな改正法令の関係で、改正内容が既存法令の内容に吸収される吸収改正方式(既存法令の一部を追加・修正・削除する改正法令が成立・施行されるとすぐにその改正内容が既存法令の内容に吸収される方式)と、改正法令が独立的に存在する増補方式(既存法令の一部を追加・修正・削除する改正法令が成立・施行された後にも既存法令中に吸収されず、形式上独立的に存在し、既存法令を内容的に修正する方式)がある*1

2 一部改正する立法方式

改正される法令の題名の次に「一部改正法律案」を付け、次のように「○○法一部を次のように改正する。」という改正指示文を付する*2

3 一括改正法令に題名を付ける方法

数個の法令を一の共通した動機に基づき改正するにあたり、改正の必要性の面において因果関係がなく並列的である場合、従前は一部改正形式を取ったが、「制定形式」を取り、その本則で改正することに変更した*3

[一括改正の立法方式]

変更後

変更前

~のための○○個法律の一部改正に関する法律案

第1条(○○法の改正)○○法一部を次のように改正する。

 第□□条中「△△」を「▽▽」に改める。

~のための○○個法律の一部改正法律案

第1条(○○法の改正)○○法一部を次のように改正する。

 第□□条中「△△」を「▽▽」に改める。

◎事例

「被後見人欠格条項の整備のための16個法律の一部改正に関する法律」

「被限定後見人欠格条項の整備のための「加盟事業取引の公正化に関する法律」等5個法律の一部改正に関する法律」

「被後見人欠格条項の整備のための国際航海船舶等に対する海賊行為の被害予防に関する法律等35個法律の一部改正に関する法律」

◎事例

「物品税法等中改正法律」

付加価値税実施による税法調整に関する臨時措置法」

「認許可等の整備のための行政書士法等の一部改正法律」

「行政手続法の施行に伴う公認会計士法等の整備に関する法律」

「政府部署名称等の変更に伴う建築法等の整備に関する法律」

「金融監督機構の設置等に関する法律制定等に伴う公認会計士法等の整備に関する法律」

「独占規制及び公正取引に関する法律の適用が除外される不当な共同行為等の整備に関する法律」

他の法令の改正事項が多く、附則で改正しがたい場合、改正事項を集め、一の法律で改正することがある。この場合、題名は、「○○法施行に伴う関係法令の整理に関する法律」や「○○に伴う□□法等の整備に関する法律」等とする*4

[立法モデル]

○○法制定等に伴う□□法等の整備に関する法律

第1条(□□法の改正)□□法一部を次のように改正する。

 第◇◇条中「△△」を「▽▽」に改める。

国会では、一括改正対象法令が数個の常任委員会の所管に該当する場合には、常任委員会管主義に違背する可能性があり、当該法律は、公布と同時に本則で規定する個別法律を改正し廃止される1回性の法律となり、爾後改正の可否に議論を生ずる可能性があるから、慎重を期する必要があるとする*5

第3 日本における一部改正方式と一括改正法令の題名

1 法令の制定・改廃方式*6

毎年制定される法律のうちで、最も多い部分を占める方式は、「一部を改正する法律」であり、新規制定法、全部改正法、廃止法は、わずかであるという。

新規制定法は、制定された後に一部改正されても同一性を維持し、有効に存続する。新規制定法は、新たに制定される法律のうち約2割程度を占める。

一部改正法は、既存法律内容のうち、一部を変更しようとするときに「○○法の一部を改正する法律」等の題名を付して制定され、最近新たに制定される法律のうちほとんど大部分を占める。

一部改正法は、吸収改正方式が採用され、元来の法律とは、別途に独立の法律として制定されるが、その目的とする改正内容は、施行と同時に外来の法律に溶け込んでいってしまい、改正規定自体は、機能を喪失した形骸となる。

2 一部改正の立法方式

日本で一部改正方式は、わが国と同様に吸収改正方式を採っている。これは、一部改正法令は、元来の法令とは別個の独立した法令として独自の法令番号を持つが、施行されれば元来の法令を改正する内容(変更・追加・削除)は、元来の法令に溶け込んでいき、その役割を終えて消え去り、溶け込んでいくことのできない附則のみが残ることとなる方式である*7。この場合、附則に一部改正法令番号が表示される*8

 他の法令を改廃する法令は、他の法令を改廃しその使命を遂げることとなるから、複数の法令を改廃する場合にも同様であるとする*9

3 一部改正法令に題名を付する方法

日本で一部改正法令の題名は、「……の一部を改正する法律」とするという*10。すなわち、元来の題名の後に「の一部を改正する法律」を付ける方式である*11

[事例]

独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(2014年法律第9号)

道路運送法施行令の一部を改正する政令(2017年政令第1号)

4 一括改正法令に題名を付する方法

一部改正法令が同時に2以上の法令の改正を目的として制定される場合も一部改正法令として題名を付するという*12

他の法令の改正が原因と結果の関係にあれば、附則で他の法令を改正することが原則であり、題名に附則で改正される法令の題名は、明示しないという*13。この場合もわが国と同様である。

附則で他の法令を改正する場合と異なり、一の共通する動機があるが、改正の必要性に原因と結果の関係がなく、並列的な場合*14数個の法令を一の改正法令として本則で一括して改正する法令を一括法令又は束ね法令と呼ぶという。

主に、同一の趣旨により規定をおかなければならなかったり、趣旨・内容において相互密接な関係がある場合等に活用される*15

基本的な一括法の題名は、次のとおりである。2個のみを改正する場合には、題名を全て明示し、3個以上改正する場合には、1つだけ明示し、残りは「等」で処理している*16

[例示]

2個の法律を一括改正する場合

独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(2014年法律第9号)

3個以上の法律を一括改正する場合

道路運送法施行令の一部を改正する政令(2017年政令第1号)

一括改正する趣旨を明確にしようとする場合には、「自動車関係手続における電子情報処理組織の活用のための道路運送車両法等の一部を改正する法律」、「次世代社会を担う子どもの健全な育成を図るための次世代育成支援対策推進法等の一部を改正する法律」*17のように題名に「のための」を付したり、第1条に趣旨を規定する場合もあるという*18

5 整理法令と整備法令

 法令を制定し、又は改正することに伴い他の法令を整理するために改正しなければならない場合、附則で改正するが*19、改正すべき法令が特に多い場合、別途法令を制定し*20、本則で関係法令を整理する場合がある。これを整理法令という*21

[事例]

特許法等の施行に伴う関係法律の整理に関する法律(1959年法律第129号)

銀行法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(1981年法律第61号)

機械的に関係法令を改正し整理する程度を超え、実質的に別途の改正要素がある場合整備法令という*22

[事例]

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(2005年法律第87号)

商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(1997年法律第72号)

民事訴訟法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(1996年法律第110号)

ところで、法令の制定や改正を伴わなくても、整理法令や整備法令という名称を使用する場合もあるという*23。改正に共通する動機が比較的広範囲な目的に該当し、相応する改正しようとする法令が相当に多く、類似した性格に限られる場合である*24

[事例]

電気通信分野における規制の合理化のための関係法律の整備等に関する法律(1998年法律第58号)

産業技術に関する研究開発体制の整備等に関する法律(1988年法律第33号)

防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(1974年法律第101号)

沖縄の復帰に伴う関係法律の改廃に関する法律(1971年法律第130号)

6 法令一部改正時の改正指示文

法令の一部を改正する場合には、次のように、最初に既存法令中一部を改正する旨の改正指示文を書き、その次に改正内容を規定する*25

[事例]

道路運送法の一部を改正する法律(2016年法律第100号)

道路運送法の一部を次のように改正する。

 

独立行政法人日本スポーツ振興センター法及びスポーツ振興投票の実施等に関する法律の一部を改正する法律(2016年法律第35号)

第1条(独立行政法人日本スポーツ振興センター法の一部改正)独立行政法人日本スポーツ振興センター法の一部を次のように改正する。

第2条(スポーツ振興投票の実施等に関する法律の一部改正)スポーツ振興投票の実施等に関する法律の一部を次のように改正する。

 

人工衛星等の発射及び人工衛星の管理に関する法律(2016年法律第76号)

附 則

第6条(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法の一部改正)国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法の一部を次のように改正する。

第8条(地方税法の一部改正)地方税法の一部を次のように改正する。

第4 わが国における一括改正法律形式についての妥当性の検討

1 わが国と日本での一括改正法律の比較

一部改正法律案も、立法手続上議案番号を付して独立した法律案として扱い、公布時の公布番号も付するから、少なくとも公布・施行されるときまでは、別個に存在し、公布・施行と同時に吸収されると解さなければならない。一部改正法律の内容と効力が既存法律の改正であるためである。少しの間でも別途に存在するという点で制定と類似する。

しかし、施行がなされ、既存法律を改める内容のとおり反映してしまえば、存在理由が喪失され、附則のみが増補方式で既存法律の附則の一番後に付けられるという点で、制定以後存続する一般的な制定と異なる。

すなわち、一部改正も新たに策定されるという点で制定であるが、存続しないために、一般的な制定と異なる。

一括改正は、数個の一部改正法律案を作ると煩雑で立法経済に符合しないために、簡素化する立法方式として一部改正法律案を結合した形態である。

わが国では、一部改正法律の題名を「○○法一部改正法律」とするが、日本では、「○○法の一部を改正する法律」とする。したがって、わが国で一括改正するときには、「○○法等□□個法律一部改正法律」等としていたが、日本で一括改正をするときには、2個を改正するときは「○○法及び□□法の一部を改正する法律」、3個以上を改正するときは「○○法等の一部を改正する法律」と、各国の事情に合わせて、異なる使用をしてきた。日本では、「整理(整備)に関する法律」も一部改正法律と解しており、日本の総務省で提供する現行法令で一括改正法令は検索されない*26

ところで、日本では、一部改正と一括改正で法令の題名が同一の方式であるが、わが国では、一部改正と一括改正法令で題名を付する方式が異なっており、わが国の一括改正法令の題名が日本の一括改正の題名と類似している。しかし、日本で「一部を改正する法律」は制定法律ではなく、一部改正法律の題名である。

[わが国・日本の制定・改正法律の題名]

区分

わが国

日本

制定

○○○法、○○○法律

○○○法、○○○法律

全部改正

○○○法全部改正法律

題名はなく、改正文〔原文ママ*27〕で代える*28

一部改正

○○○法一部改正法律

○○○法の一部を改正する法律

一括改正

従前

現行

○○○法等の一部を改正する法律

□□□個法律一部改正法律案

□□□個法律一部改正に関する法律

2 日本の文献上の一部改正法律及び一括改正法律での「制定」の意味

日本の文献で一部改正が一括改正で制定という表現を用いる理由は、いずれにせよ施行される前までは独立して存在するという点で新たに策定された法律であるためであり、一部改正法律や一括改正法律が一般的な制定と同様に存続すると解してはいない。言い換えると、一括改正も一部改正であるから、日本の文献で一部改正に制定という表現を用いているからといって、一般的な制定法律を意味するものではない。

3 国会事務処の意見に対する検討

2018年当時の国会で地方一括移譲法の内容が制定であるという意見を提示したが、日本では、一括改正法律で各条の内容を改正指示文と理解しているから、日本では、内容上でも制定ではなく一部改正である。わが国でも、改正指示文を数個の条に分けて規定したからとという、制定形式であると解する根拠はない。

のみならず、一括改正法を制定法であるとするならば、吸収されずに存続されなければならないが、吸収加除され存在意義を喪失する実質に符合せず、一部改正方式と一括改正方式で題名を異にする理由もないから、一部改正で題名を付する方式を一括改正にも適用すべきである。

「整理に関する法律」や「整備に関する法律」も性格上一部改正法律であるから、「整理(整備)のための○○個法律一部改正法律案」と題名を付すれば一貫して一括改正の題名を付することができることとなる。

第5 結論

2018年法令立案・審査基準での一括改正題名の変更は、国会事務処の意見を尊重し、その意見に合わせるほかなかったためであると考える。ただし、このような方式は、わが国の一部改正方式に符合せず、わが国と日本での違いを考慮せず、日本での一括改正方式と類似した方式を採択したものであるから、妥当であると解するのは困難である。

変更された基準によったとしても、一部改正の効果において違いはないから、軽微な問題と解することもできるが、立法方式は、法制度における根本をなし、論理体系的でなければ説得力を有しがたいという点で、今後改める機会があればよいのではないかと考える。

*1:法制処、法令立案・審査基準、2020、672頁

*2:法制処、上掲書、2020、675頁

*3:法制処、上掲書、2020、710頁

*4:法制処、上掲書、2020、653頁、国会法制室、法制理論と実務、2016、174頁

*5:国会法制室、上掲書、174頁

*6:法制用語研究会、条文の読み方、有斐閣、2021、13頁

*7:林修三、法令作成の常識、日本評論社、1999、77頁、山本庸行、実務立法技術、商事法務、2006、24頁

*8:林修三、上掲書、79頁。この場合、附則を改正しようとする法令の題名は、「○○法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」となるとする。

*9:法制執務研究会、ワークブック法制執務(第2版)、ぎょうせい、2020、382頁

*10:林修三、上掲書、80頁、山本庸行、上掲書、23頁、吉田利宏、新法令解釈・作成の常識、日本評論社、142頁

*11:法制執務研究会、上掲書、423頁

*12:法制執務研究会、上掲書、423頁

*13:林修三、上掲書、81頁

*14:林修三、上掲書、81頁

*15:山本庸行、上掲書、23頁

*16:林修三、上掲書、81頁、吉田利宏、上掲書、143頁

*17:吉田利宏、前掲書、143頁

*18:山本庸行、上掲書、28頁

*19:吉田利宏、上掲書、142頁

*20:法制執務研究会、上掲書、381頁

*21:山本庸行、上掲書、30・306・403頁

*22:山本庸行、上掲書、30・306・403頁

*23:山本庸行、上掲書、31頁

*24:法制執務研究会、上掲書、381頁

*25:法制執務研究会、上掲書、373頁

*26:現行法令と扱われていないという点は、存続しないという趣旨と解することができる。

*27:訳註:全部改正のため、「制定文」を「改正文」の誤りと考えたのであろう。

*28:信託業法(1922年法律第65号)の全部を改正する。」のような改正文〔原文ママ〕を付するといい、題名のみでは、新規制定法と区別されないという(吉田利宏、上掲書、136頁)。