日韓の 法令に 関すること(など)

日韓の 改め文に 関することを 中心に 調べたことなど(法令以外に 関するものも 含む。)を 書いていく 予定です(ひとまず)。 IE未対応です。

(10) 法令案の改正方式をいわゆる全文改め方式とする場合の基準及び利点並びに主に法制執務上考えられる問題点について

(10) 法令案の改正方式をいわゆる全文改め方式とする場合の基準及び利点並びに主に法制執務上考えられる問題点について(平13)」(『法令整備会議関係資料集(三)』pp.132-145。)

(平13・9・10)

一 議題

1 法令の改正条文の作成作業量の軽減の観点から、法令の一部改正の場合においても、改正の必要な部分のみを個別に改めていく方式(個別改正方式)ではなく、当該条文又は法令全体を全部改正する方式(全部改正方式)を採用すべきではないか。

2 全部改正方式の利点としてはどのような点が挙げられるか。また、法制執務上どのような問題点があるか。長所、短所があるとすれば、どのような基準で個別改正方式と全部改正方式とを使い分けるべきか。

〈検討〉

1 単一の条(項、号)中の文言の改正の場合

(1) 改正方式のタイプ

A 第○条中「 」を「 」に、「 」を「 」に改める。(個別改正方式)

B 第○条を次のように改める。(全部改正方式)

(2) 全面改正方式の長所と短所

〈長所〉

① 改め文は極めて容易に作成できる。

② 改正後の条文がどのようなものなのかがわかりやすい。

〈短所〉

① 改正部分がごく少ないような場合を想定すると、そのような場合でも条文全体について再度規定し直すこととなるため、改正文が長くなり、読み合わせ等の手間がむしろ増加する。

② 改正部分がごく少なく、単純なもののような場合(例えば、手数料の額を「1万円」から「2万円」に引き上げる場合)を想定すると、個別改正方式の方が改正の趣旨が明瞭であるのに対し、全部改正方式ではどこが旧法令との違いであるのかがわかりにくくなる。

(3) 改正方式の採用基準

基準イ どちらの方式の方が改め文が短くなるかにより、短い方の方式を採用する。

基準ロ 全部改正方式を原則とし、改正部分が単純な文言の改正(引用条文の条番号、金額、年数等)で、かつ、改正箇所数が少ない(2~3カ所)ため、個別改正方式の方が明らかにわかりやすい場合に限って例外的に個別改正方式を採用する。

(例)

  • 第○条中「100万円」を「200万円」に改める。
  • 第○条中「第30条」を「第31条」に改める。
  • 第○条中「3年」を「5年」に、「4年」を「6年」に改める。

基準ハ すべて全部改正方式に統一する。

(4) 評価

① どちらの方式を採用するかの基準としては、現状では上記基準イ(条文の長さ)が一般的ではないかと思われる。

② 改め文の作成作業軽減等の観点から全部改正方式をより多くの場合に採用することは考えられるが、長い条文中に1カ所だけ改正部分がある場合など、業務量の多寡、改正条文のわかりやすさいずれの観点から見ても全部改正方式には躊躇を感じるケースもあるのではないか。そうだとすれば、(ちなみに、新旧対照表公示方式を採用した鳥取県においても、小規模改正の場合には一部改正方式を選択できることとしている)。

③ 基準イは1つの合理的な基準ではあると考えられるが、次のような点を考慮すれば、むしろ基準ロ(全部改正を原則とし、個別改正方式の方が簡明であることが明らかな場合に例外的にこちらを採用)を採用すべきではないか。

イ 法令作成業務量の軽減、改正法令のわかりやすさの双方が求められていること。

ロ 上記(2)の両方式の比較においても、個別改正方式の長所が現れるのは改正部分がごく少量で、かつ、簡明なものである場合に限られていること。

④ ただし、改正箇所の数等により全面改正方式を採用すべき場合の定量的な基準を設けることについては、全体の条文の長さとの相対関係が問題となること、箇所数としては少なくとも改正内容は複雑なものもあること等を勘案すると、無理があるのではないか。

(注)なお、表の改正の場合には、表全体の改正ではなく、そのうちの特定の項(号)のみについて全面改正を行うことが適切な場合が多いと考えられるところ、表の形状が複雑であったり、項(号)の名称がないために、「別表第10の項を次のように改める」式の改正が行えず、表中の一部を指示してその部分を個別方式で改める方式をとらざるを得ないことがある。このようなことを避けるために、表の形状をできるだけ単純なものとするよう努めるとともに、表頭や表側に項(号)や欄の番号を付すようにするべきではないか。

2 複数の条(項、号)中の文言の改正の場合(全体の条数に変更がなく、従って条文の移動がない場合)

① この場合には、基本的には、個々の改正条文について、上記1の単一条の考え方を適用すれば足りると考えられる。

② しかし、改正すべき条文の数が多くなってきた場合には、法律全体を全部改正とする(改正部分が特定の章に限定されている場合にあっては、当該章全体の改正とする)ことも考慮する必要がある。

③ 法律の全部改正方式をとると、改め文としては長も簡単なものになる。しかし、他方で、この方式では、改正不要の条文や、簡単な個別改正方式で対応できる条文についても、再度規定し直すこととなるため、改正法の分量が肥大化する、従って読み合わせ等の業務最が増加する、改正点がどこにあるのかがわかりにくくなるなどの問題点が生じる。

④ また、個々の改正条文については、上記1の基準によって過大な業務量をもたらさないように改正が行われているわけであり、かつ、改正条文の数が複数になることによって加速度的に業務量が増加するという問題はない。

⑤ したがって、上記1の基準によって対応したときに、全部改正を行うこととなる条文の数が法律全体の大部分に及ぶような場合に限って法律全体の全部改正方式を採ることとすれば足りるのではないか。

3 複数の条(項、号)中の文言の改正の場合(全体の条数に増減があるため、条文の移動を伴う場合)

① このケースにおいては、改正不要の条文についても条の移動が必要となる場合には、追加される条文の場所を空けるためにまず後続の条文を後に移動させることが必要)。条文の移動を行う場合には、元来改正が不要な条文についても、条ズレに伴う引用条文番号の修正の必要が生じたり、さらにそれらに伴って形式改正事項(「行なう」を「行う」に改める等)も発生する可能性がある(法律全体が章や節に分けられている場合、共通見出しが用いられている場合などには複雑さがさらに増大する)。このため、場合によっては加速度的に改め文が増加することとなる。

② 従って、このケースにおいては、上記2の基準の適用に当たって、移動すべき条文についての改正規定を考慮に入れ、それが複雑なものになる場合には、当該条文自体を全面改正が望ましい条文としてカウントした上で、それらを含めた全面改正条文の数が法律全体の大部分を占めるような場合には、法律全体を全部改正とすべきではないか。

③ なお、全体の条数に増減がある場合であっても、その分を「枝条文」や「削除条文」とすれば、条文の移動は生じないため、単純な上記2のケースに帰着する。しかし、この方式を用いた場合には、仕上がりとしての法律中に、場合によっては多数の「枝条文」や「削除条文」が残ることを甘受しなければならなくなるとの問題がある。

二 議事要旨

1 全部改正方式をより弾力的に採用すべきであり、現状において全部改正方式採用の一般的な基準と考えられている「改め文の長さ」(諮題の検討1③の基準イ)にこだわるべきでないとの点については、ほぼ異論がなかった。

2 しかしながら、全部改正方式を原則とし、特定の条件を満たす場合に限って例外的に個別改正方式を採るとの基準(同基準ロ)をルール化することについては、異論が多く出された。これは、次の3で整理するような観点から個別改正方式の採用の方が望ましいケースも想定されることから、個別改正方式の採用を必要以上に制約すべきでなく、実際の場面に応じてケース・バイ・ケースで柔軟な対応ができることが必要であるというものであった。

3 右の2において、全部改正方式に問題点があり、個別改正方式の方が勝ると考えられる要素として指摘された点は以下のようなものであった。

(一)個別改正方式の方が改正点やその趣旨が明瞭になる場合がある。全部改正方式では何が変更になったのかがわからない。

(二)全部改正方式では、本来改正する必要がない部分についても新たに条文を書き下すことになるため、そような部分を含めて責任を持って厳重なチェックが必要となる。このことは、全体として業務量を増加させ、むしろ法令改正に要する時間を増加させかねない。

(三)同じ国会に同じ法律の改正法が複数提出されるようなケースにおいて、双方が個別改正方式を採っている場合にはそれぞれの改正部分が重複していなければ相互の調整は特段必要ないが、双方が全部改正方式を採ると両者の改正部分が重複し、相互調整の必要が増大して複雑化する。

4 なお、複数の条項が改正される場合の当該法令全体の改正方式(議題の検討3) についても、基本的には個別条文の改正の場合と同様と考えられるが、法令全体の改正の場合には、右の3で指摘された全部改正方式の問題点がより顕著に現れやすいため、一層慎重な対応が必要であるとの意見があった。

三 資料

1 漁船法の一部を改正する法律案新旧対照条文(傍線の部分は改正部分)〈抜粋〉

[略]

2 漁船法の一部を改正する法律(案)抜粋

[略]